「……失礼だがこういう時は男は綺麗だと言わなければならないのか?」

「な……っ」

(はぁ?! いまなんて言ったの?!)

不躾すぎる質問に私は目を剥きそうになる。

(どういう意味よ! 綺麗だなんて言いたくないけど言った方がいいかなんて、仮にも花嫁である私に聞くなんて……っ)

喉のすぐそこまで出かかった言葉を私はぐっと飲み込む。

(落ち着くのよリリー、いまは式の最中なんだからっ)

「……仮の妻ですもの。お世辞は結構ですわ」

私は精一杯の嫌味と共ににっこりと笑みを返す。

するとルーカスは険しい顔をしたまま、頬を紅潮させた。


(な、なによ……怒った訳?! そっちが喧嘩ふっかけてきたんでしょうが)

私はいら立ちを押さえるように手のひらをぎゅっと握ると、再び前を向いた。


ちょうど讃美歌がおわり、神父様が静かに口を開く。

「ルーカス=アルベルト王子……健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも互いを愛し、慰め合いその命がある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」

ルーカスは先ほどと違って真剣な表情をすると神父に向かって毅然とした声で答える。

「リリー=エヴァンズ、あなたもルーカス=アルベルトを夫とし、生涯愛することを誓いますか?」

私も覚悟を決めると大きな声で誓いを口にした。

「はい。誓います」



そして神父から運ばれてきた指輪を互いの指に嵌める。ルーカスから左手の薬指に指輪を嵌められた瞬間、互いの指輪が見えない鎖でつながったような気がして胸がズキンと痛んだ。

「それでは誓いのキスを」

(え?)

私は神父からの言葉に一瞬、自分の中の時間が止まる。

(す、すっかり忘れてた……)