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──半月後・王宮。

私は純白のウェディングドレスを纏い、婚姻の儀が行われる会場の扉前で深呼吸していた。扉の向こうでは私の夫となるルーカスが待っている。

(この扉が開けば……もう後戻りできない)

ルーカスと出会った夜から私の世界は一変した。

あの夜の翌日にはルーカスの使者からお父様宛に手紙と誓約書が届けられ、まだ私から話を聞いていなかったお父様は驚きとショックのあまり三日間、寝込んでしまった。

大事な一人娘の夫が悪魔王子と呼ばれる冷酷非道な男で、更に母の殺しに関わっているかもしれないだけでなく、互いの利害関係のためだけの契約結婚となれば娘を持つ親として受け入れがたいのは当然のように思う。

四日目にようやく生気を取り戻したお父様を私は丸二日かけて説得し、何とか首を縦に振らせてからは本当に早かった。


「はぁあ……」

「きゅう……」

私のため息に肩に乗っているラピスが、私の長い髪の間から顔だけ出した。

「大丈夫よ。もう決めたことから……」

本来であれば今日という日を迎える前に、ノース騎士団の関係各所や親戚一同からお祝いの言葉や贈り物があってもよいのだが、皆だんまりと口をつぐんでいる。

悪魔王子に嫁ぐ私及び、悪魔王子と呼ばれているルーカスとできるだけ関わり合いになりたくないのだろう。

ちょうど数日前に市場へ買い出しにいったドーナが言うには、エヴァンズ公爵令嬢は悪魔に魂を売っただの、ルーカス王子はエヴァンズ公爵令嬢に魔術をかけて操っているだの、私たちの結婚は(ちまた)では“呪われた結婚”と騒がれているそうだ。

(呪われた結婚、ね……)