カイルの言う通り、リリーがもしそのように受け取っているなら、なぜそんな風に俺の言葉を受け取ったのか全くわからない。

ずっと探していた初恋の君であるリリーを殺すことなど断じてあり得ない上に、心から愛するリリーを脅したつもりなど微塵もない。

「……リリーが俺の妻になれば俺も堂々とリリーの母を殺した犯人探しに乗り出せる。リリーの力になってやりたい、ただそれだけだ」

「ルーカス様のお気持ちは《《僕は》》十分に理解しております」

カイルが「僕は」とつけたのを見ると、リリーはそう理解してくれてはいないのだと、なんだか落ち込みそうになって来る。


(一緒にいたくて少々強引な言葉だったかもしれないが……)

(リリーは俺のことを覚えていなかったしな)

(素直に婚約してくれと言ったところで、ああでも言わなければ悪魔王子の俺と結婚など……)


「……なにやら失敗したのか? 俺は?」

すぐにカイルが首を横にふった。

「いえ。結果的にリリー様はルーカス様の求婚を受け入れられたのですから成功でしょう」

「……リリーは一年と言っていたな……」

あの場では了承したが俺は一年で別れるつもりなど毛頭ない。しかし現にリリーを妻として一緒に過ごせる期間はたった一年しかないと言うことだ。


(短い……短すぎる……)

(一年後……別れるなど……いまから涙がでてきそうだ……)


「ルーカス様、大丈夫ですか?」

「なんでもない。目にゴミが入ったのだ」

「…………」


俺はカイルに泣きそうになったことを悟られぬよう、眉間にキュッと皺を寄せてから大きなため息を吐きだした。