「よろしかったのですか?」

「何がだ?」

「本当はご自身でお見送りしたかったのでしょう?」

「そんなことはない。こ、この俺が行くほどのことでもないだろう」

俺はそう口にしながらも、本当は喉から手が出る程にリリーを見送りたかったし、なんならもっと話したかった。

さらに言えば今晩からでもそばに置いて置きたい気持ちを何度、心の奥底に押し込めたかもわからない。

かといってここでカイルにそんなことまで話す気には到底なれなかった。理由はなんだか恥ずかしすぎるからだ。

「ルーカス様、ご婚約の件について国王へのご報告はいつされますか?」

「ああ、そうだな、まずはエヴァンズ公爵に連絡を……」

「その件なら大丈夫です。すでにエヴァンズ公爵家には明日、使いの者が婚約について書かれた書類と誓約書をお届けする手はずになっております」 

「仕事が早いな」

「そりゃあそうでしょう。善は急げというじゃありませんか? ルーカス様もどうしてもリリー様を逃したくないため、あのような脅しめいたプロポーズをされたのでしょう?」

(ん?)

俺はカイルの話を頷きながら聞いていたが、『脅し』という言葉に眉を顰めた。

「カイル、その脅しのようなプロポーズとはなんだ?」

「え? そこですか?!」

「ああ。俺は極めて冷静にリリーにとって納得がいくような言葉を選び、かつ紳士的に誠実にプロポーズしたつもりなのだが……」

俺の返事にカイルがクククっと笑いを漏らす。

「さようでございましたか。しかしながらおそらくリリー様は先ほどのプロポーズを結婚しなければ今すぐ殺す、くらいにしか解釈されてないように存じます」

「な……っ、なに?!」