「リリー様は、無事に帰路につかれました」

「ご苦労だった、彼女にはちゃんと《《つけた》》だろうな?」

「はい。リリー様とそのお付きのものだというドーナには絶対に気づかれないよう、腕のたしかな護衛を数人《《つけて》》おります」

「そうか。お前が裏口からリリーを見送ったことは?」

「誰にも見られておりません」

「ならいい。下がれ」

こう言えば、いつもすぐに下がるカイルが俺の隣に立つと、俺を見て微笑んだ。

「良かったですね」

(全く、勘がいい男だ)

そのすべてを見透かしたような表情と言葉に俺はカイルに向かって答え合わせをするべく口を開くことにした。

「いつ気づいた? リリー=エヴァンズが俺の探していたリリーだと」

「ルーカス様が剣を突き付けられた際にすぐに気づきました。初恋の君に再会されたあまり、ルーカス様のお顔が極度の緊張から恐ろしい程に凶悪な顔をされていらしゃったので」

「ん? 凶悪な顔だと?」

「はい。それでいて、リリー様から見つめられればほんのりと頬を染めてらっしゃいましたし、何よりの決め手はあの時のルーカス様からは全く殺気が感じられませんでしたので、間違いないと確信いたしました」

「なるほどな……だからリリーに自分の剣を抜かせたのか?」

したり顔で饒舌に話していたカイルが僅かに目を見開いた。

「……バレてましたか」

「リリーの腕は確かだが、かといってお前が俺の次に大切にしているその剣を他人に抜かせるわけがないからな」

「お見それ致しました」

カイルが小さく肩をすくめると、窓の外に視線を向けた。俺も椅子越しに外に目をやるが、リリーの乗った馬車はもう星屑程度の大きさにしか見えない。