「必死に逃げようとして可愛いですね」

ぶつかった壁だと思っていたのは人だった。ドアの前にずっと犯人は立っていた。そして私が逃げ出そうとするのを楽しんでいたんだ。そしてその犯人はーーー。

「成瀬(なるせ)先生!?あなたがこんなことを!?」

成瀬先生は私の所属する剣道部の顧問の先生で、古典を教えている。そんな先生が私を熱を孕んだ目で見つめて、先生にぶつかって尻もちをつきそうになった体を支えている。ゾッと背筋に寒気が走った。

「あなたはとても可愛らしい。ずっとあなたを縛って閉じ込めてみたかったんです。紫乃(しの)さん、想像した通りあなたは可愛かった」

成瀬先生は私の頰に手を添える。私は成瀬先生から逃げようと胸板を押した。だけど女子高生と大人の男性なんて力の差は歴然。あっという間に床に押さえ付けられてしまう。

「嫌!!離して!!誰か!!」

無駄とわかっていても必死にもがき、助けを呼ぶ。でも成瀬先生は表情を緩めたままだった。