「環奈はもう会社を辞めたんだよ。だからもうこんな早くに起きなくていいの」

まるで小さい子どもに言い聞かせるみたいに飛鳥くんは言った。飛鳥くんに言われたことで思い出す。私は、会社でパワハラを受けて退職したんだった。

「そうだった。すっかり忘れてた」

「ご飯俺が作るから、もう少し寝てきなよ」

飛鳥くんはそう言い、キッチンの方へと向かった。私は過去のことを思い出しながら、その後ろ姿をジッと見ていた。今、私が生きているのは彼がいたからだ。

新卒で入った会社での仕事は、大変だけど同期たちと和気藹々としながら取り組んでいた。そんなある日、根も歯もない噂が流れて、上司や同期から避けられて、お局社員からパワハラされて、私の精神が壊れるのはあっという間だった。

『環奈を大切にしてくれない、環奈を信じてくれない会社なら、環奈がいる意味ないんじゃないかな？俺のそばにいてよ』

ボロボロになった私に、幼なじみの飛鳥くんは優しく言ってくれた。それから彼に言われるまま会社を辞め、飛鳥くんの家で暮らし始め、入籍した。