◯洋風居酒屋・テーブル席(夜)
居酒屋に集まったのは同じ企画開発部で働く同僚のうち8人程度。
店内の奥にある半個室のテーブルで、千秋が中心になって場をまとめていた。
千秋「それじゃあ今日も1日おつかれさんってことで」
「(グラスを掲げて)カンパーイ!」
杏璃以外「カンパーイ!!」
テンションが高い同僚に、杏璃は早くもげんなりしている。
ビールが入っているグラスを持ってはいるものの、おざなりに宙に浮かせただけだった。
杏璃(やっぱ来なきゃよかった)
(千秋さん来るんだったら、天野くんだって心配いらなかったわけだし)
咲也は悠里と美雪に挟まれながら、変わらず愛想よく接している。
酒が苦手なのか、手に持っているのはジュースのようだった。
美雪が甲高い声ではしゃぎながら、咲也の腕を叩いている。
美雪「やだー。咲也くんてばマジでお世辞うまーい」
咲也「(若干痛そうにしながら)いやいや、皆さん若くてきれいじゃないですか」
「化粧品メーカーの社員さんって、やっぱ美意識高いんですね」
杏璃の隣にいる男性社員(40代後半くらい)は苦笑いだった。
同僚男性「俺が同じこと言ったら、途端にセクハラだなんだって非難轟々だろうに」
「いいよなぁ、イケメンは」
杏璃(確かにあの変わり身の早さは、同性でも恐ろしいわ)
杏璃が冷めた気分で咲也たちを観察していると、悠里と目が合った。
濃いルージュを塗った唇がにぃっと釣り上がる。
杏璃の背筋にゾワッと悪寒が走った。
杏璃(マジで怖っ)
震える杏璃の隣で、男性社員がのほほんとメニューを広げた。
同僚男性「唐沢さんもまだイケるでしょ。俺ワインいくけど、どう?」
杏璃「(ビクッと我に返り)あー…じゃあ一緒にいただきます」
ぐいっとグラスを傾け、ビールを一気に空にする。
ワインを飲み交わす杏璃と同僚男性。
カクテルグラスを傾ける杏璃。
同僚男性が赤ら顔でグラスを掲げている。
涼しい顔でハイボールを飲み下す杏璃の横で、同僚男性が突っ伏していびきをかく。
次のコマでは、杏璃はひとりで緑茶ハイを傾けていた。
酒豪の杏璃は酔いを表情に出さず、冷静に周囲を観察する余裕すらあった。
顔を真っ赤にした悠里が、咲也にまだ絡んでいた。
悠里「咲也くん、ちゃんと飲んでる? こーゆー場ではさ、積極的に飲んでコミュニケーション取んなきゃダメよ」
「ほらぁ、あたしのサワー一口あげるから」
ずいっとグラスを押しつける悠里に、咲也もたじたじになっていた。
咲也「いや、僕アルコール苦手で…。ちゃんとジュース飲んでますよ」
悠里「ジュースぅ?」
「だぁめだめ! 酒の付き合いも大事な仕事」
ぐいぐいと咲也の頬にグラスを当てる悠里に、周囲もざわつきはじめた。
美雪が悠里の肩を抑えた。
美雪「梶さん、飲みすぎですよ」
「ってか大学生にこの絡みはまずいですって」
途端に悠里の顔つきが変わった。
悠里「(目を据わらせて美雪を睨む)なによー」
「あたしはねー、この子に社会人の心得ってもんを教えてやってんの。頼りになんない指導役に代わって」
あからさまな棘を杏璃に向ける悠里。
悠里「じゃないと、誰かさんみたいな仕事ばっかりのロボットみたいになっちゃうでしょ」
美雪「か、梶さん…」
言い過ぎだと思ったのか美雪が諌めようとしたが、悠里は無視して咲也に絡み続ける。
悠里「はい、いいから飲んで」
咲也「(引きつり笑いで両手を突き出しながら)いや、僕はほんとに…」
ひょいっと悠里の手からグラスが消える。
突然のことに一瞬拍子抜けしたように目を瞠る悠里。
その背後で仁王立ちした誰かが、豪快に奪った酒を飲み下している(この瞬間は下半身もしくはうしろ姿のみのカット)。
杏璃「(グラスの中身を飲み干し)っあ゙──!」
口元を袖で拭った杏璃が、じろりと悠里を睨んだ。
杏璃「飲みましたけど、これでいいですか?」
杏璃の鋭い眼差しに悠里も酔いが吹き飛んだ様子でたじろいだ。
悠里「な、なによ」
「私は咲也くんに言ったんであって…」
杏璃「私もあなたの後輩ですから」
「それに気をつけなきゃダメですよ」
杏璃は悠里の前にグラスを戻した。
杏璃「アルハラも結構問題になってるみたいですから」
悠里はキッと杏璃を睨んだが、言い返すことができなかったようで唇を噛んでいた。
盛り上がっていたはずのテーブルがシンと静まり返る。
杏璃は自分のバッグを持って立ち上がると、ほとんど眠っていた千秋に声をかけた。
杏璃「課長、お先に失礼します」
千秋「(わずかに目を開けて)んー…?」
「ああ、そう。おつかれぇ…」
返事をしたものの、千秋は誰が話しかけてきたのかすらわかっていないようだった。
再びテーブルに突っ伏して寝息をたてはじめた。
酔いをちっとも見せないしっかりした足取りで杏璃が居酒屋を出ていく。
その背中を、咲也が頬を染めた憧れの表情で見送っている。
後輩たちもまた、ヒソヒソと噂をしていた。
後輩2「見た? 今の唐沢さん、超カッコイイ!」
後輩1「ねっ。ハンサムウーマンってああいう人のことよねぇ」
後輩2「それに比べると梶さんは…ね?」
後輩ふたりがちらっと悠里のほうを見る。
悠里は爪が食い込むほど強く自分の拳を握りしめた。
顔がアルコールとは無関係に真っ赤に染まっている。
悠里「なによ…」
「なんでいつもあの子ばっかり…!」
居酒屋に集まったのは同じ企画開発部で働く同僚のうち8人程度。
店内の奥にある半個室のテーブルで、千秋が中心になって場をまとめていた。
千秋「それじゃあ今日も1日おつかれさんってことで」
「(グラスを掲げて)カンパーイ!」
杏璃以外「カンパーイ!!」
テンションが高い同僚に、杏璃は早くもげんなりしている。
ビールが入っているグラスを持ってはいるものの、おざなりに宙に浮かせただけだった。
杏璃(やっぱ来なきゃよかった)
(千秋さん来るんだったら、天野くんだって心配いらなかったわけだし)
咲也は悠里と美雪に挟まれながら、変わらず愛想よく接している。
酒が苦手なのか、手に持っているのはジュースのようだった。
美雪が甲高い声ではしゃぎながら、咲也の腕を叩いている。
美雪「やだー。咲也くんてばマジでお世辞うまーい」
咲也「(若干痛そうにしながら)いやいや、皆さん若くてきれいじゃないですか」
「化粧品メーカーの社員さんって、やっぱ美意識高いんですね」
杏璃の隣にいる男性社員(40代後半くらい)は苦笑いだった。
同僚男性「俺が同じこと言ったら、途端にセクハラだなんだって非難轟々だろうに」
「いいよなぁ、イケメンは」
杏璃(確かにあの変わり身の早さは、同性でも恐ろしいわ)
杏璃が冷めた気分で咲也たちを観察していると、悠里と目が合った。
濃いルージュを塗った唇がにぃっと釣り上がる。
杏璃の背筋にゾワッと悪寒が走った。
杏璃(マジで怖っ)
震える杏璃の隣で、男性社員がのほほんとメニューを広げた。
同僚男性「唐沢さんもまだイケるでしょ。俺ワインいくけど、どう?」
杏璃「(ビクッと我に返り)あー…じゃあ一緒にいただきます」
ぐいっとグラスを傾け、ビールを一気に空にする。
ワインを飲み交わす杏璃と同僚男性。
カクテルグラスを傾ける杏璃。
同僚男性が赤ら顔でグラスを掲げている。
涼しい顔でハイボールを飲み下す杏璃の横で、同僚男性が突っ伏していびきをかく。
次のコマでは、杏璃はひとりで緑茶ハイを傾けていた。
酒豪の杏璃は酔いを表情に出さず、冷静に周囲を観察する余裕すらあった。
顔を真っ赤にした悠里が、咲也にまだ絡んでいた。
悠里「咲也くん、ちゃんと飲んでる? こーゆー場ではさ、積極的に飲んでコミュニケーション取んなきゃダメよ」
「ほらぁ、あたしのサワー一口あげるから」
ずいっとグラスを押しつける悠里に、咲也もたじたじになっていた。
咲也「いや、僕アルコール苦手で…。ちゃんとジュース飲んでますよ」
悠里「ジュースぅ?」
「だぁめだめ! 酒の付き合いも大事な仕事」
ぐいぐいと咲也の頬にグラスを当てる悠里に、周囲もざわつきはじめた。
美雪が悠里の肩を抑えた。
美雪「梶さん、飲みすぎですよ」
「ってか大学生にこの絡みはまずいですって」
途端に悠里の顔つきが変わった。
悠里「(目を据わらせて美雪を睨む)なによー」
「あたしはねー、この子に社会人の心得ってもんを教えてやってんの。頼りになんない指導役に代わって」
あからさまな棘を杏璃に向ける悠里。
悠里「じゃないと、誰かさんみたいな仕事ばっかりのロボットみたいになっちゃうでしょ」
美雪「か、梶さん…」
言い過ぎだと思ったのか美雪が諌めようとしたが、悠里は無視して咲也に絡み続ける。
悠里「はい、いいから飲んで」
咲也「(引きつり笑いで両手を突き出しながら)いや、僕はほんとに…」
ひょいっと悠里の手からグラスが消える。
突然のことに一瞬拍子抜けしたように目を瞠る悠里。
その背後で仁王立ちした誰かが、豪快に奪った酒を飲み下している(この瞬間は下半身もしくはうしろ姿のみのカット)。
杏璃「(グラスの中身を飲み干し)っあ゙──!」
口元を袖で拭った杏璃が、じろりと悠里を睨んだ。
杏璃「飲みましたけど、これでいいですか?」
杏璃の鋭い眼差しに悠里も酔いが吹き飛んだ様子でたじろいだ。
悠里「な、なによ」
「私は咲也くんに言ったんであって…」
杏璃「私もあなたの後輩ですから」
「それに気をつけなきゃダメですよ」
杏璃は悠里の前にグラスを戻した。
杏璃「アルハラも結構問題になってるみたいですから」
悠里はキッと杏璃を睨んだが、言い返すことができなかったようで唇を噛んでいた。
盛り上がっていたはずのテーブルがシンと静まり返る。
杏璃は自分のバッグを持って立ち上がると、ほとんど眠っていた千秋に声をかけた。
杏璃「課長、お先に失礼します」
千秋「(わずかに目を開けて)んー…?」
「ああ、そう。おつかれぇ…」
返事をしたものの、千秋は誰が話しかけてきたのかすらわかっていないようだった。
再びテーブルに突っ伏して寝息をたてはじめた。
酔いをちっとも見せないしっかりした足取りで杏璃が居酒屋を出ていく。
その背中を、咲也が頬を染めた憧れの表情で見送っている。
後輩たちもまた、ヒソヒソと噂をしていた。
後輩2「見た? 今の唐沢さん、超カッコイイ!」
後輩1「ねっ。ハンサムウーマンってああいう人のことよねぇ」
後輩2「それに比べると梶さんは…ね?」
後輩ふたりがちらっと悠里のほうを見る。
悠里は爪が食い込むほど強く自分の拳を握りしめた。
顔がアルコールとは無関係に真っ赤に染まっている。
悠里「なによ…」
「なんでいつもあの子ばっかり…!」