○『S.make』企画開発部オフィス
自分のデスクに戻った杏璃。
パソコンを開いたところで、真横に立った人影に気づく。
腕を組んで仁王立ちした悠里が、杏璃をじろりと見下ろす。
悠里「ちょっといい?」
杏璃「…はい」
向き合って立ち上がろうとする杏璃。
その前に悠里がバサッと書類の束(クリップでまとめた資料が3、4つほど)を投げ出してきた。
驚く杏璃に、悠里がぶっきらぼうに告げる。
悠里「とりあえず例の企画、いくつか用意してきたから」
「課長に出す前にあなたがチェックしてくれる?」
杏璃「えっ」
書類を見下ろして絶句する杏璃。
杏璃「これ一晩で考えてきたんですか…!?」
悠里「(ジロッと杏璃を睨む)なによ、文句ある?」
杏璃「いやっ、なんもありませんけど!」
あわてて否定する杏璃。
赤くなった悠里が、噛みつくように捲し立てる。
悠里「昨日はずいぶん偉そうに語ってくれてたけどね! いいコスメをつくりたいって気持ちは私だって負けていないわよ」
悠里の指先がビシッと杏璃を指す。
悠里「だから今は一時休戦! 協力してあげるかわりに、あなたも知恵貸しなさい」
杏璃「梶さん…」
呆然とつぶやく杏璃に、顔を赤くしたまま悠里が怒鳴る。
悠里「言っとくけど、あくまで仕事のためだから! 別に今さらあなたによく思われようとかは全然これっぽっちも考えてないし、あのころみたいな仲良しこよしも望んじゃいないから!」
目を瞠る杏璃。わずかに目を潤ませて笑う。
杏璃「わかりました…!」
「私ももう遠慮しません」
悠里がひくっと顔を引きつらせる。
悠里「前から無遠慮だったやつがよく言うわ…」
悠里の企画書のひとつを手にした杏璃。
パラパラめくりながら、顎に指を当てて唸る。
杏璃「今回はJK向けプチプラ路線でしたよね?」
悠里「そうよ。新シリーズとして売り出すつもり」
杏璃「うーん…このカラバリだとちょっと女子高生には合わなくないですか? (企画書を指差す)地味っていうか」
杏璃の指摘に気色ばむ悠里。
悠里「地味じゃなくてナチュラル! メイク初心者の子でも扱いやすい色にしてんのっ」
杏璃「今の子たちって推し活とかするじゃないですか」
「(企画書を指差し)パレットもいいんですけど、推しカラーのアイシャドウとかアイライナーを増やしたら…」
はっとした悠里が真剣な顔で企画書をのぞき込む。
悠里「そうね。それならライブとかイベントでも落ちにくいウォータープルーフはマストね」
杏璃「少しでも目立つほうがいいかも…。グリッターアイライナーのバリエーション増やすとか」
悠里「待って、そうなると…」
「(振り向いて)森ちゃん!」
少し離れた位置で眺めていた後輩がビクッと反応する。
後輩1「は、はい!」
悠里「森ちゃん推し活してるよね? メン地下の。参考意見聞かせてよ」
後輩1「えっ、わ、私のですか?」
杏璃が周囲を見回す。
杏璃「森さんに限らず、ほかになにか意見ある人いませんか?」
顔を見合わせていた同僚たち。
数人がおずおずと近づいてくる。
美雪「推しカラーごとにセットつくるのはどうですか? アイメイクだけじゃうまくまとまらないってことありますし」
後輩2「た、確かに」
後輩1「せっかく推しメンのカラーでアイシャドウ塗っても、リップとかアイブロウがそれに合わなきゃちぐはぐですね」
美雪「実際の推しメイクの流れを動画にして…」
悠里「動画はQRコードで、購入者限定で見られるようにするでしょ」
杏璃「セット販売ならおまけがついてたほうがいいですね。ネイルポリッシュとか、ポーチとか」
後輩1「推しぬい入れる透明なやつがいいですっ」
いつの間にか杏璃のデスクを離れ、ホワイトボードの前で集まる企画課の面々。
中央で悠里が同僚たちと真剣な表情でディスカッションを交わし、杏璃がホワイトボードに文字を書いていく。
ホワイトボードの中央には、『好きを全力で好きって言う そんな私が大好きだ!!』の文字。
瞳を輝かせ、熱心に同僚たちと議論を展開させていく杏璃。
その様子を離れた場所から見ている咲也。
口元に笑みを浮かべつつ、寂しげな表情。
咲也(良かった、杏璃さん…)
企画課のオフィスに繋がるドアの向こうで、誰かが立ち止まる気配。
咲也が気づいて振り返った。
自分のデスクに戻った杏璃。
パソコンを開いたところで、真横に立った人影に気づく。
腕を組んで仁王立ちした悠里が、杏璃をじろりと見下ろす。
悠里「ちょっといい?」
杏璃「…はい」
向き合って立ち上がろうとする杏璃。
その前に悠里がバサッと書類の束(クリップでまとめた資料が3、4つほど)を投げ出してきた。
驚く杏璃に、悠里がぶっきらぼうに告げる。
悠里「とりあえず例の企画、いくつか用意してきたから」
「課長に出す前にあなたがチェックしてくれる?」
杏璃「えっ」
書類を見下ろして絶句する杏璃。
杏璃「これ一晩で考えてきたんですか…!?」
悠里「(ジロッと杏璃を睨む)なによ、文句ある?」
杏璃「いやっ、なんもありませんけど!」
あわてて否定する杏璃。
赤くなった悠里が、噛みつくように捲し立てる。
悠里「昨日はずいぶん偉そうに語ってくれてたけどね! いいコスメをつくりたいって気持ちは私だって負けていないわよ」
悠里の指先がビシッと杏璃を指す。
悠里「だから今は一時休戦! 協力してあげるかわりに、あなたも知恵貸しなさい」
杏璃「梶さん…」
呆然とつぶやく杏璃に、顔を赤くしたまま悠里が怒鳴る。
悠里「言っとくけど、あくまで仕事のためだから! 別に今さらあなたによく思われようとかは全然これっぽっちも考えてないし、あのころみたいな仲良しこよしも望んじゃいないから!」
目を瞠る杏璃。わずかに目を潤ませて笑う。
杏璃「わかりました…!」
「私ももう遠慮しません」
悠里がひくっと顔を引きつらせる。
悠里「前から無遠慮だったやつがよく言うわ…」
悠里の企画書のひとつを手にした杏璃。
パラパラめくりながら、顎に指を当てて唸る。
杏璃「今回はJK向けプチプラ路線でしたよね?」
悠里「そうよ。新シリーズとして売り出すつもり」
杏璃「うーん…このカラバリだとちょっと女子高生には合わなくないですか? (企画書を指差す)地味っていうか」
杏璃の指摘に気色ばむ悠里。
悠里「地味じゃなくてナチュラル! メイク初心者の子でも扱いやすい色にしてんのっ」
杏璃「今の子たちって推し活とかするじゃないですか」
「(企画書を指差し)パレットもいいんですけど、推しカラーのアイシャドウとかアイライナーを増やしたら…」
はっとした悠里が真剣な顔で企画書をのぞき込む。
悠里「そうね。それならライブとかイベントでも落ちにくいウォータープルーフはマストね」
杏璃「少しでも目立つほうがいいかも…。グリッターアイライナーのバリエーション増やすとか」
悠里「待って、そうなると…」
「(振り向いて)森ちゃん!」
少し離れた位置で眺めていた後輩がビクッと反応する。
後輩1「は、はい!」
悠里「森ちゃん推し活してるよね? メン地下の。参考意見聞かせてよ」
後輩1「えっ、わ、私のですか?」
杏璃が周囲を見回す。
杏璃「森さんに限らず、ほかになにか意見ある人いませんか?」
顔を見合わせていた同僚たち。
数人がおずおずと近づいてくる。
美雪「推しカラーごとにセットつくるのはどうですか? アイメイクだけじゃうまくまとまらないってことありますし」
後輩2「た、確かに」
後輩1「せっかく推しメンのカラーでアイシャドウ塗っても、リップとかアイブロウがそれに合わなきゃちぐはぐですね」
美雪「実際の推しメイクの流れを動画にして…」
悠里「動画はQRコードで、購入者限定で見られるようにするでしょ」
杏璃「セット販売ならおまけがついてたほうがいいですね。ネイルポリッシュとか、ポーチとか」
後輩1「推しぬい入れる透明なやつがいいですっ」
いつの間にか杏璃のデスクを離れ、ホワイトボードの前で集まる企画課の面々。
中央で悠里が同僚たちと真剣な表情でディスカッションを交わし、杏璃がホワイトボードに文字を書いていく。
ホワイトボードの中央には、『好きを全力で好きって言う そんな私が大好きだ!!』の文字。
瞳を輝かせ、熱心に同僚たちと議論を展開させていく杏璃。
その様子を離れた場所から見ている咲也。
口元に笑みを浮かべつつ、寂しげな表情。
咲也(良かった、杏璃さん…)
企画課のオフィスに繋がるドアの向こうで、誰かが立ち止まる気配。
咲也が気づいて振り返った。