○『S.make』ミーティングルーム


T『インターン最終日──』

ミーティングルームのテーブルで向かい合って座る杏璃と咲也。
咲也がつくった企画書を、杏璃が真剣な表情でめくっている。

最後の1枚を読み終えた杏璃。
書類をテーブルに置き、ふぅっと息を吐く。

咲也がごくりと唾を飲む。

咲也「どうでしたか…? 僕の企画」

杏璃「うん…そうね…」

杏璃の口元にふっと微笑が浮かぶ。

杏璃「はじめてにしては上出来」

咲也「…えっ!?」

口をぽかんと開ける咲也。
杏璃がクスクス笑う。

杏璃「正直ね、そこまで期待してなかったの。企画書の形だけできてればいいかなー、くらい」
「でも、想像以上によくできてる。ちゃんと自分がつくりたいものを表現できてるし、構想もしっかり書けてる」

企画書をトントンと指差し、口角を上げる杏璃。

杏璃「合格」

パアッと顔を輝かせる咲也。

咲也「あ、ありがとうございます!」

杏璃「(頬杖をついて)喜ぶのは早いわよー」
「これ、課長と部長にも見せるんだから」

咲也「(顔を強張らせる)えっ…」
「そ、それプレッシャーが…」

狼狽える咲也を苦笑して見つめる杏璃。

憑き物が落ちたような穏やかな表情を見せる杏璃に、咲也はわずかに頬を赤くする。

咲也「あの、唐沢さん」

杏璃「なに?」

咲也「(真剣な表情)僕…ここに本気で入社を考えてます」

目を丸くする杏璃。
まだ顔を赤らめたまま、真面目な顔で話し続ける咲也。

咲也「もし僕がこの会社に入って、企画課に配属されたら」

杏璃「…うん」

咲也「この企画を改めて提案できたらなって…」
「(眉を下げて苦笑い)…難しいですかね」

一瞬目を見開いたあと、ふっと微笑む杏璃。

杏璃「…いや」
「面白そう。楽しみにしてる」

パッと顔を綻ばせる咲也。

咲也「はいっ!」

杏璃「(立ち上がりながら)そのときにはもっとビシバシ指導するから」

咲也「(少し青ざめる)が、頑張ります…」

ミーティングルームを出る杏璃。
そのうしろを咲也が追いかける。