◯焼き鳥居酒屋・テーブル席

以前ふたりで入った居酒屋でグラスを掲げる杏璃と咲也。
杏璃がビール、咲也はコーラ。

咲也「今日は本当にありがとうございました!」

杏璃「お疲れ様」

カチンとグラスを合わせるふたり。
咲也がコーラをごくごくと呷る。

咲也「あーっ、うまい!」

ややテンションが高い咲也にくすっと笑みをこぼす杏璃。

杏璃「ずいぶんご機嫌ね」
「さてはおばあちゃんっ子?」

咲也「バレました?」

恥ずかしそうに左手で頭をかく咲也。

咲也「両親が共働きだったんで、子どものころはほとんど祖母に面倒を見てもらってたんです」

杏璃「(グラスを手に薄く笑う)可愛がられてたみたいだしね」

焼き鳥の盛り合わせと枝豆、サラダが運ばれてくる。
そのほかテーブルに並ぶのは冷奴、ポテトフライ、唐揚げ。

唐揚げをひとつ頬張り、咲也が話し出す。

咲也「僕、唐沢さんにひとつ嘘ついてました」

枝豆を食べようとしていた手を止め、咲也を見る杏璃。

杏璃「嘘?」

咲也「僕がメイク業界に入ろうとした理由です」
「姉とその友だちがキッカケのひとつだったことは間違いないんですけど、本当の理由は今日のあのボランティアなんです」

咲也の中ではじめて織江にメイクをしてやった日が浮かぶ。



◯(回想)介護施設『あすかの里』


手鏡を持ってメイクをした自分を恥ずかしそうに見つめる織江。

織江「こんなに若々しくなれるもんなのねぇ」
「おじいちゃんが生きてたら、きっと腰を抜かすわ」

鏡をおろし、織江は咲也を誇らしげに眺める。

織江「ありがとう、サクちゃん。おばあちゃん幸せもんだわ」

(回想終了)