◯公園(夜)
居酒屋を出た杏璃は、背中に咲也を背負っていた。
咲也は顔を真っ赤にして杏璃の背中で寝息をたてている。
あきれ顔でため息をつく杏璃。
杏璃(サワー1杯で撃沈とか…どんだけ弱いのよ)
杏璃「天野くん、大丈夫?」
呼びかけられてわずかに唸る咲也だが、目は変わらず閉じられたままだった。
杏璃「これじゃ私も帰れないじゃん…」
ひとりで放っておくわけにもいかず、とりあえず近くのベンチに咲也をおろした。
ベンチに座ったままカクンと首を揺らす咲也の肩を軽く叩く。
杏璃「天野くーん。おうちどこ? タクシー呼んであげるから」
咲也「(目を閉じたまま)んん…おうち…」
杏璃「そう、おうち。タクシーで送ってもらうから」
薄く目を開けた咲也が、へにゃっと笑った。
かと思えば、両手を大きく広げて叫んだ。
咲也「俺のおうちは日本でーす!」
「アイフロムジャパーン! あはははは…」
杏璃「はあぁぁぁぁ…」
大きなため息とともにがっくりと肩を落とす杏璃。
杏璃(飲ませるんじゃなかった…)
ひたいを抑えながら杏璃は咲也に命じた。
杏璃「お水買ってきてあげるから、おとなしく待ってて」
咲也はあざとく唇を尖らせた。
咲也「えー、俺ジュースがいいですー」
杏璃「うるさい、酔っぱらい」
ぴしゃりと咲也の願いを跳ね除けて、杏璃は自動販売機で水を購入した。
ペットボトルを咲也に差し出す杏璃。
杏璃「はい」
咲也「ありがとうございまーす」
少し意識がはっきりしたのか、ぼんやりしながらも咲也は水を受け取った。
蓋をパキリと開け、そのままゴクゴクと飲みはじめる。
ぷはっとペットボトルから口を離した咲也。
杏璃は隣で様子を見守っていた。
杏璃「少しはスッキリした?」
咲也「ああ、はい。だいぶ…」
咲也は気まずげに頬をかいた。
咲也「すいません。結局迷惑かけちゃって」
杏璃「別に大丈夫よ。付き合わせたのは私だし」
杏璃は自分もブラックコーヒーの缶を開けて一口飲んだ。
長い足を組んで缶を煽る姿は、それだけで絵になる。
咲也は赤い顔のまま杏璃を見つめている。
咲也「やっぱ唐沢さんはカッコよくて素敵です」
杏璃はゴフッと噎せた。
杏璃「な、なに急に」
咲也「急じゃないですよ。仕事もできるし、上司から頼りにされてるし、困ってたら颯爽と助けてくれるし…」
咲也は言いながらちらっと杏璃の手元を見た。
咲也「俺は唐沢さんと違ってまだ子どもだから…」
「酒もダメだし、苦いものも辛いものも苦手だし」
シュンとした咲也を励ますように杏璃は告げた。
杏璃「さっきも言ったけど、天野くんの愛嬌は天性の才能だよ」
「人を自然と笑顔にできて、周りからも可愛がられて。すごく稀有な才能」
杏璃は自虐気味に笑った。
杏璃「それに私くらいの大酒飲み、普通は引くでしょ? すぐ赤くなって酔える子が羨ましいくらい」
「逆に女の子が好きそうな甘いものとか苦手だし」
咲也「(しっかりした調子で)俺は好きですよ」
杏璃「だろうね。似合いそうだもん」
「クリームたっぷりのパンケーキとか、カラフルなマカロンとかさぁ…」
咲也「唐沢さんみたいな人」
コーヒーを飲んでいた杏璃が動きを止める。
咲也はまだ赤い顔をしていたが、目は真剣だった。
咲也「真面目でストイックで努力家で…」
「クールに見えて情に厚いところも、意外に繊細なところも含めて、魅力的だなって思います」
杏璃の顔がかぁっと赤くなり、動揺した手元で缶が震えている
杏璃「ちょ、ちょっとからかわないでよ。天野くんから見れば普通におばさんじゃない」
「酔っぱらいの悪ふざけも大概に…」
咲也は急に立ち上がり、強気な口調で告げた。
咲也「悪ふざけじゃないです!」
「俺は唐沢さんのこと、人として尊敬できる方だって思ってます!」
杏璃「(拍子抜けした顔で)へぁ…?」
杏璃(そ、尊敬…)
自分の早とちりに気づいた杏璃は、ますます頬を紅潮させた。
杏璃「あ、ありがとう…?」
杏璃(焦ったぁ〜〜〜〜〜)
テンパっている杏璃に気づかず、咲也は残りの水を飲み干した。
咲也「じゃあ俺帰ります。ごちそうさまでした」
杏璃「(はっと我に返り)あ、タクシーは?」
咲也は笑いながら手を振った。
咲也「もうほとんど酔ってないから大丈夫ですよ」
「タクシーは唐沢さんが使ってください。女性のほうが危ないですから」
T『数時間前に男にナンパされていた男』
愛くるしい男子に諭され失笑する杏璃。
杏璃「説得力ないなぁ」
「まあ、いっか。じゃあ気をつけてね」
咲也「はい!」
「(ビシッと敬礼)明日もよろしくお願いします!」
若干ふらふらしながら公園を出ていく咲也。
そのうしろ姿が見えなくなったところで杏璃はへなへなとくずおれた。
ロングヘアの隙間からのぞく耳元が真っ赤になっている。
杏璃「好きって言われた…」
◯夜道
公園から少し離れた薄暗い道。
足早に歩いていた咲也が歩みを止める。
真っ赤に顔を火照らせる咲也。
近くの電柱にゴンとひたいをぶつける。
咲也「好きってなんだよ…」
居酒屋を出た杏璃は、背中に咲也を背負っていた。
咲也は顔を真っ赤にして杏璃の背中で寝息をたてている。
あきれ顔でため息をつく杏璃。
杏璃(サワー1杯で撃沈とか…どんだけ弱いのよ)
杏璃「天野くん、大丈夫?」
呼びかけられてわずかに唸る咲也だが、目は変わらず閉じられたままだった。
杏璃「これじゃ私も帰れないじゃん…」
ひとりで放っておくわけにもいかず、とりあえず近くのベンチに咲也をおろした。
ベンチに座ったままカクンと首を揺らす咲也の肩を軽く叩く。
杏璃「天野くーん。おうちどこ? タクシー呼んであげるから」
咲也「(目を閉じたまま)んん…おうち…」
杏璃「そう、おうち。タクシーで送ってもらうから」
薄く目を開けた咲也が、へにゃっと笑った。
かと思えば、両手を大きく広げて叫んだ。
咲也「俺のおうちは日本でーす!」
「アイフロムジャパーン! あはははは…」
杏璃「はあぁぁぁぁ…」
大きなため息とともにがっくりと肩を落とす杏璃。
杏璃(飲ませるんじゃなかった…)
ひたいを抑えながら杏璃は咲也に命じた。
杏璃「お水買ってきてあげるから、おとなしく待ってて」
咲也はあざとく唇を尖らせた。
咲也「えー、俺ジュースがいいですー」
杏璃「うるさい、酔っぱらい」
ぴしゃりと咲也の願いを跳ね除けて、杏璃は自動販売機で水を購入した。
ペットボトルを咲也に差し出す杏璃。
杏璃「はい」
咲也「ありがとうございまーす」
少し意識がはっきりしたのか、ぼんやりしながらも咲也は水を受け取った。
蓋をパキリと開け、そのままゴクゴクと飲みはじめる。
ぷはっとペットボトルから口を離した咲也。
杏璃は隣で様子を見守っていた。
杏璃「少しはスッキリした?」
咲也「ああ、はい。だいぶ…」
咲也は気まずげに頬をかいた。
咲也「すいません。結局迷惑かけちゃって」
杏璃「別に大丈夫よ。付き合わせたのは私だし」
杏璃は自分もブラックコーヒーの缶を開けて一口飲んだ。
長い足を組んで缶を煽る姿は、それだけで絵になる。
咲也は赤い顔のまま杏璃を見つめている。
咲也「やっぱ唐沢さんはカッコよくて素敵です」
杏璃はゴフッと噎せた。
杏璃「な、なに急に」
咲也「急じゃないですよ。仕事もできるし、上司から頼りにされてるし、困ってたら颯爽と助けてくれるし…」
咲也は言いながらちらっと杏璃の手元を見た。
咲也「俺は唐沢さんと違ってまだ子どもだから…」
「酒もダメだし、苦いものも辛いものも苦手だし」
シュンとした咲也を励ますように杏璃は告げた。
杏璃「さっきも言ったけど、天野くんの愛嬌は天性の才能だよ」
「人を自然と笑顔にできて、周りからも可愛がられて。すごく稀有な才能」
杏璃は自虐気味に笑った。
杏璃「それに私くらいの大酒飲み、普通は引くでしょ? すぐ赤くなって酔える子が羨ましいくらい」
「逆に女の子が好きそうな甘いものとか苦手だし」
咲也「(しっかりした調子で)俺は好きですよ」
杏璃「だろうね。似合いそうだもん」
「クリームたっぷりのパンケーキとか、カラフルなマカロンとかさぁ…」
咲也「唐沢さんみたいな人」
コーヒーを飲んでいた杏璃が動きを止める。
咲也はまだ赤い顔をしていたが、目は真剣だった。
咲也「真面目でストイックで努力家で…」
「クールに見えて情に厚いところも、意外に繊細なところも含めて、魅力的だなって思います」
杏璃の顔がかぁっと赤くなり、動揺した手元で缶が震えている
杏璃「ちょ、ちょっとからかわないでよ。天野くんから見れば普通におばさんじゃない」
「酔っぱらいの悪ふざけも大概に…」
咲也は急に立ち上がり、強気な口調で告げた。
咲也「悪ふざけじゃないです!」
「俺は唐沢さんのこと、人として尊敬できる方だって思ってます!」
杏璃「(拍子抜けした顔で)へぁ…?」
杏璃(そ、尊敬…)
自分の早とちりに気づいた杏璃は、ますます頬を紅潮させた。
杏璃「あ、ありがとう…?」
杏璃(焦ったぁ〜〜〜〜〜)
テンパっている杏璃に気づかず、咲也は残りの水を飲み干した。
咲也「じゃあ俺帰ります。ごちそうさまでした」
杏璃「(はっと我に返り)あ、タクシーは?」
咲也は笑いながら手を振った。
咲也「もうほとんど酔ってないから大丈夫ですよ」
「タクシーは唐沢さんが使ってください。女性のほうが危ないですから」
T『数時間前に男にナンパされていた男』
愛くるしい男子に諭され失笑する杏璃。
杏璃「説得力ないなぁ」
「まあ、いっか。じゃあ気をつけてね」
咲也「はい!」
「(ビシッと敬礼)明日もよろしくお願いします!」
若干ふらふらしながら公園を出ていく咲也。
そのうしろ姿が見えなくなったところで杏璃はへなへなとくずおれた。
ロングヘアの隙間からのぞく耳元が真っ赤になっている。
杏璃「好きって言われた…」
◯夜道
公園から少し離れた薄暗い道。
足早に歩いていた咲也が歩みを止める。
真っ赤に顔を火照らせる咲也。
近くの電柱にゴンとひたいをぶつける。
咲也「好きってなんだよ…」