隼人がこんな話をするの、はじめて聞いた。

 ヒロ兄のことをそんなふうに思っていたなんて、全然知らなかった。


「けどさ、俺が母さんに叱られていじけてると、いっつも静かに慰めてくれて、俺がどんなイヤな態度取っても、いっつも平気な顔で受け止めてくれてさ。今まで俺、どんだけ子どもだったんだよって、今さらだけど、ヒロ兄の偉大さに気づいたっつーか。ちぃが……ヒロ兄のこと好きになるのも、まあ、当たり前だよなって気づいたっつーか。そんで……いざヒロ兄が家出てくってなったら、なんかここがずっと苦しいんだよね」

 そう言って、隼人が胸元をぎゅっと握りしめる。


 そっか。ヒロ兄、気づいてる? ヒロ兄の優しさは、ちゃんと隼人にも届いてたよ。

 なんだかわたしまでうれしくなってきちゃった。


「あ。今のこと、ヒロ兄には絶対に言うなよな」

「言わないよ」

「絶対だぞ」

「うん、わかったってば」

 隼人が何度もクギを刺してくる。


 だったら、わたしなんかに言わなきゃよかったのに。

 でも、誰かにどうしても言いたくなることって、あるよね。


「ほんと、ヒロ兄は大人だよね。今日だって、わたしの気持ち、全部わかってたはずなのに、知らんぷりしてくれてたんだよ、ずっと」


 思い出したら、なんだか泣きそうになってきちゃった。

 おかしいな。ちゃんと気持ちの整理できたし、平気だと思っていたんだけど。