ヒロ兄には、婚約者がいる。

 大学のサークルで知り合ったっていう、同い年の人。

 秋に結婚式を挙げる予定なんだと隼人に聞いたのは、今年のお正月の話。


 年明け早々、目がパンパンに腫れるまで泣いた。

 わたしが泣き止むまで、隼人はじっと黙ってそばにいてくれた。


「ごめん。正月早々言うことじゃなかったよな。けど……ヒミツにされる方がツラいかなって思って」


 正直、知りたかった気持ちと、知りたくなかった気持ちは半々くらい。

 けど、もし直前まで知らなかったら「なんでもっと早く教えてくれなかったの⁉」ってブチ切れるのは間違いなかったから、多分、隼人が正解だったんだと思う。


「……本当は、彼女さんとお祭り来たかったよね、ヒロ兄。わたしとで、ごめんね」

「ううん。はじめて三人で来たときのこととか思い出して、今日は僕も楽しかったよ。それにね、『今回だけでいいから、ちぃに付き合ってやって』って隼人に頼まれたからさ。隼人が僕に頼み事をしてくれたことなんて、実は今まで一回もなかったから、ちょっとうれしくってね。……ごめん。兄バカだって笑ってくれてもいいよ」

 ヒロ兄が、小さく苦笑いする。