「ごめんね千紘(ちひろ)ちゃん。お待たせ」

 聞き慣れた声にパッと顔を上げると、浴衣姿のヒロ兄が、わたしの待つ神社の入り口に向かって歩いてきているのが見えた。

「ううん。全然大丈夫。わたしも今来たところだから」


 ヒロ兄は、わたしのお隣さんで、高二のわたしの八つ年上だから……今年で二十五歳。


「お隣なんだから、いつもみたいに一緒に来ればよかったのに」


 小学校低学年の頃は、ヒロ兄の弟で、わたしと同い年の隼人(はやと)と一緒に、よくこのお祭りに連れてきてもらっていたっけ。

 中学に入る頃には、わたしも隼人も学校の友だちと一緒に来るようになったから、ヒロ兄とこのお祭りに来るのは、何年ぶりだろう。


「だって、一度でいいから、こうやって待ち合わせがしてみたかったんだもん」

 ——デートするみたいに。

「ほらっ。それよりヒロ兄、早く行こっ」

 ヒロ兄の腕をぐいっと引くと、神社の階段をトントントンと軽快に上っていく。

「あんまりはしゃぐと転ぶよ。気をつけて」

「もうっ。ヒロ兄ってば、わたしのこと、まだ小学生だと思ってるの?」

 ——そんなふうに、いつまでも子ども扱いしないでよ。

「あはは。そうだね。ごめん、ごめん」


 階段を上りきると、神社の境内にはたくさんの出店が立ち並び、楽しそうな笑顔が溢れていた。


 わたしも、みんなみたいに笑えてるかな。