「あの時の咲人さんの言い方は、命令じゃありませんでした。〝やめてくれない?〟は、〝やめろ〟とは別なので。

だから私は、命令されたわけじゃありません。よって、ココも出て行きません」

「……だいぶ苦しい言い逃れしてんの、分かってる?」

「もちろん。でも私は、咲人さんを諦める方がもっと苦しいんです」

「!、~ははっ」


飛鷹さんは笑った。胡坐をかいた自分の太ももを、バシバシ叩きながら。


「はーあ。アンタ、そうとう狂ってんな」

(狂ってる……)


それは例えば、友達に言われたら傷つくかもしれない。「狂ってる」なんて、ドラマや漫画でしか見聞きしない言葉だし。

だけど不思議なことに。

咲人さんのことで「狂ってる」と言われても、全然傷つかない。むしろ「好きに狂う私もイイじゃん」って、斜め上の思考になれる。

自分が変わる。
咲人さんによって変えられる。
それは何だかくすぐったくて、心地が良い。