「キスの練習、したいなぁ」


咲人さんとキスするために、キスが上手くなりたい。そのための練習がしたい。

もちろん咲人さんと練習できれば、それが一番なんだけど……きっと相手にしてもらえない。そのくせ私は咲人さんとしかキスしたくないから、早くも手詰まりだ。

何か代替え案は……あ。


「グミで唇の形を作る?マシュマロの方がいいかな?でも柔らか過ぎるか」


ハハハ、と。誰もいなくなった部屋に、私の声が虚しく響く。グラスの中の氷が溶け始めたのか、カランと。伽藍堂な部屋に切なく響いた。


「自分でも分かってるよ……こんなの空元気だって」


ねぇ咲人さん。私ね、この部屋を追い出されるのは嫌だから言わないけどさ。ずっとここにいたいから、咲人さんを嫌がらせたり、困らせるようなことは言わないけどさ。

でも、言わないだけでね。
本当は、いつも思ってるの。


「私だけを見てほしいな……」


外で女の人と遊ぶ時間を、私と遊ぶ時間にしてほしい。私のキスを「下手」と笑ったあと、何度もキスして直接、私にキスを教えて欲しい。

咲人さんの時間を全て私に使ってほしいと思うのは、贅沢なお願いなのかな。