「行ってらっしゃいのキス、したいです」
「やだよ。ミミ、下手だもん」
「濃いやつ、します!それで咲人さんを悩殺します!」
「それも下手だからヤダ」
むぅ。咲人さんを触るには、高すぎる壁がそびえ立っている。咲人さんの住むマンションの一室からお見送りをしてるだけなのに、どうしてこうももどかしいんだろう。
「もう無理やりします!」
「俺の嫌がることしたら、ここにミミの居場所なくなるけど?」
「ゔ……じゃあ我慢します」
「あっそ。じゃね」
卑怯な言葉でお預けされたキス。切ないはずなのに、なぜか唇は熱くほてっていく。これは「仕方ないなぁ、一回だけね」って。そう言ってくれるかもって、少しでも期待した自分への罰だ。
「……冷やそう。頭も、唇も」
どうしようもないから、冷たい炭酸にこれでもかと氷を入れた。グラスに口をつけた瞬間、熱がどこかへ飛んでいく。私の期待もドキドキも、はるか彼方に散り去った。