だけど反対に。
咲人さんの低い低い、怒った声。


「俺の言ったことを忘れたのか、飛鷹」

(ひいぃ……っ!)


私の横で、見たことない量の怒気を放つ咲人さん。懐かしくも恐ろしい雰囲気に、思わず口がわななく。


「わ、私が言ったんです!連れてきて下さいって!」

「ミミ……」


ソッと、咲人さんが私の頬に手を寄せる。

咲人さんは口の横から血を流し、それでいて眉を下げるものだから……もうギリギリの状態だったんじゃないかな?って。切なくて、今すぐ抱きしめてあげたくなった。


「へえ、その子はミミというのか」

「ッ!」


襲撃の音を聞いてか戻った部下からの応急処置を退け、手から血を流したまま。興味津々な紫吹の目が、私を射抜く。


「苗字は?」

「みょ、名字……っ?」


本名を言っちゃいけないって分かってる。


(でもミミはミミだから、名字なんて無いよ!
……あ、そうだ)


カモフラージュに悩んだ末。
私が口にした名字。
それは――


「みょ、名字は、大鳳になる予定、です!」

「……」


私の答えを聞いた後、紫吹は咲人さんを見やる。もちろんご本人は、かたくなに目を合わそうとしなかった。