まさかの理由に苛立っていると、手にハンドサインが送られる。見ると、飛鷹さんが「鼻息を抑えろ」と。ものすごい形相で睨んでいた。

……スーハー。サイレント深呼吸をして、再び咲人さんを見る。


「夜の街で働かせているのか。まさか国外にも?」

「ビトラは流通に特化してるんだろう?どこへ女が出国したか、把握はお手の物だろ」

「ウチは信用第一だからな。不審物は扱わない」


盛大な皮肉にも、咲人さんは動じなかった。目視で分かるか分からないほどのゆっくりした動きで、徐々に背中を丸める。


「しかし正直に吐いてくれて感謝する。
これで、

いつ死んでくれても構わない」


パンッ、と。高らかな音が響く。山に面しているためか、何度か発砲音が木霊した。

一発目を避けられるのは予想していたのか。撃った直後、咲人さんは一気に間合いを詰め、紫吹の懐に入る。照準先は、紫吹の心臓。


「あぁ、そういうこと」


低い声を発したのは、紫吹。

素早く足を上げ、かかと落としで咲人さんの手元を狂わす。同時に、咲人さんの横顔にひじ鉄を食わせた。