(でも今は咲人さんだよ!こんな人を相手に、一人で戦おうとしていたなんて……)


今すぐ傍に駆け寄りたい。だけど隣にいる飛鷹さんに、手で制されている。


「いいか、ミミちゃん」――ここに近づく前、飛鷹さんが教えてくれた。


『敵を前にして許されるのはアイコンタクトとハンドサイン、それだけだ。不要な発言は生死を分ける』


生唾さえも静かに飲み込む状況下で。紫吹と向かい合う咲人さんは、臆することなく堂々と立っていた。だけど紫吹も、また然り。


「ノコノコやってきたのは、そちらサンだ。目的を言わないなら、部下を下げられないな」

「ウチの組の者が脱走し、リズ組に身を潜めている」

「脱走者?」


よきせぬワードを聞き、紫吹は合図を出して部下を下げた。私たちとは反対側へ、リズ組の数人が去って行く。