「へぇ、ビトラの右腕がおでましか。しかし変だな。リズが〝のろし〟をあげた覚えはないが?」

「一対一で話をしに来た。といっても、そっちは部下がいるな。下がらせろ」


咲人さんの言葉に、紫吹は小首を傾げる――大きな人だ。咲人さんも飛鷹さんも大きいけど、この人は頭一つでている。二百センチはありそう。

見たことない強面は、この距離にいても禍々しく見える。黒色と紫色が混じる短髪はワックスで固められ、妖しく艶めている。


(でも、不思議だな)


そんな紫吹を見ても、なぜか恐怖はなかった。それよりも「咲人さんを助けたい」って思いの方が強い。


(あ、そうか。さっき雪光さんが、私の覚悟を固めてくれたからだ)


私の弱い部分をさらけ出し「目を逸らすな」、「覚悟を決めろ」と前を向かせてくれた。だから恐怖そっちのけで、目的に集中できる。


(ありがとうございます、雪光さん。
私、必ず咲人さんを助けますから!)


咲人さんに無茶な命令を出す人だけど、根は優しい人だ。私や飛鷹さんのように〝咲人さんを失いたくない〟と思ってそうだもん。