「怒っていますか、咲人さんのこと」

「怒ってねー、わけねーだろ。俺を拾ってくれた時に〝これからよろしく〟なんて言っておきながら、最期の別れの時も〝よろしく〟なんて無理難題を言いやがる。

希望と絶望の二律背反なる言葉を、無遠慮に押し付けんじゃねーよ。下品な野郎だ」

(下品って聞くと……少し前のことを思い出す)


部屋の中で、ドーナツのゴミを無遠慮に散乱させていた飛鷹さん。その口から「下品」なんて単語が出るとは。


「なんか……安心しました」

「安心?」


飛鷹さんの鋭い瞳が、わずかに私へ向けられる。


「飛鷹さんらしくない言葉を紡ぐほど〝我を忘れて怒ってる〟ってことですよね?それだけ咲人さんを大事に想っている、ってことですよね?」

「……だったら?」

「私も同じです。
咲人さんが大事で、愛しいんです。
だから――

咲人さんの所へ連れて行ってください。
大人の意地を、引きはがしにいきます」

「!」


驚いた飛鷹さんが足を止めたのと同じ時間。道路を走っていた一台の車が、私たちの横で急ブレーキを踏んだ。