「私に……なんの、用ですか……っ」
「へ~、ビビッて泣くかと思いきや。さすが大鳳咲人が傍に置くだけある。女、アンタ度胸あるな」
「……っ」
唇に開いたピアスを、ヘビのようにチロリと舐める男。まるで極寒地帯にいるように、足元から悪寒が走る。
こんな事で怯むくらいだから、私に度胸なんてあるわけない。私にあるのは、ただの忍耐力だ。
(この状況で泣かないのは涙が枯れているからだし、男を見てビビらないのは、怒った咲人さんの方が何倍も怖いからだもん)
この一か月。咲人さんの塩対応に慣らされた私は、普通の女子よりも忍耐力がある(と自負している)。
だから、こんな所で負けない。
負けていられない。
これから私は、咲人さんのいない人生を歩むのだから。こんな事で躓くもんか――
「……へぇ、イイ目だな」
挫けない私を見て、男の笑みは止まらない。まるでサーカスのショーを観賞するように、瞳が好奇心に満ちている。