もっと気を引きしめて居れば。
甘い時間中も約束を気にしていれば。

そうすれば飛鷹さんが出て行く音にも、もっと警戒できたはずなのに――


「〝たられば〟ばかりで……ダメだな、私」


でも、こんな事も思っている。「飛鷹は死なないけど監視は続けてね」って咲人さんから一言あれば、って。

……あ。


「もしかして私が勘違いすると予想した上で、あえて言わなかった?」


もしそうだとしたら、咲人さん策士すぎる。それに……こんな手を打ってまで私を追い出したかったのかなって。考えれば考えるほど悲しくなる。


「って、簡単に引っかかる私が悪いか……」


ノロノロと、亀のように歩みを進めて五分。やっとマンションの角を曲がる。きっと咲人さんが歩けば、三十秒で到着する距離。


「ん?」


下を向いて歩いていると、何かを見つけた。大量のタバコの吸い殻。


「不良グループでもたむろしてたのかな?でも騒ぎ声は聞こえなかったけど」


と言っても咲人さんの部屋は、ココから高い高い場所にあるわけで。地上の音を、易々とは拾わない。