「私……寝たくない、です……」

「うん。俺もだよ」

「……ウソ、ですね」

「…………うん」


少し間を開けて頷いたのは、咲人さんの優しさだろうか。「うん」と返事した咲人さんの声が震えていたのは……気のせいだろうか。

もし気のせいなら。
いっそ全てを「気のせい」にしたい。


――ガチャン。


「今……玄関から、音が……」

「……うん」


静寂に割り込む、玄関ドアの開閉音。音の主は当然ながら、私と咲人さん以外の人。

誰かが入った?
もしくは出た?

――なんて。

そんな心配も「気のせい」にしたい。
玄関の音なんて聞こえなかったって。
全部ぜんぶ「気のせい」だった事にしたい。

あぁ。だけど、


「おやすみ、まほろ」


咲人さんのこの一言だけは、

いつまでも胸に刻んでおきたいな――



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