「……咲人さん」

「うん?」

「えっと……」


口を開けば零れてしまいそうな涙を、何とか呑みこむ。

泣くな泣くな、笑え。
大好きな人の前では、笑うんだ。

あの子はよく笑う子だった――咲人さんの記憶に、そう残る私でいられるように。


「ば、絆創膏みつかりました!手当させてくださいねっ」

「うん」


よろしくね、の言葉と共に広げられた手。大きくて細くて、骨ばった温度の低い手。浮き出た関節を、思わずスリッと撫でてしまう。まるで捨てられた子猫が、顔を寄せるように。


(だめだなぁ、私ってば未練タラタラ。でも咲人さんは、こんな私に一日付き合ってくれるんだよね。感謝しかないよ)


思えば――出会った時から、咲人さんには「ありがとう」の連続だった。