強大な力を前にした時、人は「抗わない方がいい」と本能で感じるらしい。抵抗も、反抗も出来ないまま。ただ目の前の出来事に悲観するのみ。


(そんな自分が情けない……)


咲人さんと出会った時。不良に絡まれ為す術なかった私を、咲人さんが助けてくれた。

今もそう。
あの時と同じ。

泣いてばかりで、二言目には「咲人さん」って叫んで。他力本願で助けを求めている。

私は敵と戦う術はおろか、自分を守る方法すら知らないんだ――


「悔しい。今すぐ立ちあがって、あなたをボコボコにしたい……っ」


やっと出た声は、惨めったらしく震えていて。声量も何もあったもんじゃない。蚊の羽音の方が、まだ大きい。

それくらい弱々しく、情けない声。


「俺をボコボコにしてみろよ。今のアンタに出来るならな」

「……っ」


したい衝動と出来ない葛藤が、私の顔を歪ませる。ここで屈したくないと思えば思う程、自分の体が鎖で縛られていくようだった。

その内「どうせ逃げられないんだ」と脱力していく。私の中の私が、脳内で白旗を上げかけた、

その時だった。


――ダンッ!!