パンパン頬を叩いた衝撃のせいか。
ふと、咲人さんと出会った光景を思い出す。
『この子に、手ぇ出さないでね』
あの時。
私に絡んだ不良を連れ、咲人さんは路地裏に行った。真剣な表情で、何やら話していた。
「そう言えば、不良たちに何か渡していた気がする……」
ピラピラしていない、キレイに畳まれた何か。私は大通りからソレを見ていたから、行き交う人に阻まれながらの観察だったけど……。
「あれは、お金だったよね?」
咲人さんからお金を受け取った不良たちは、会釈して去って行った。
お金を渡された途端あっさり引き下がるのは、悪い人によくある手口だ、なんて思いながら。
まさかドラマで見た光景を現実で目にするとは!と。ちょっと興奮しながら見たのを覚えてる。
「咲人さんがレアな表情していたのも珍しかったし……」
路地裏に行った咲人さんは眉がキリッと上がり、口が真一文字に閉じられていた。真剣、且つ深刻な顔。
咲人さんは、いつも余裕ある表情を浮かべている。だからこそ、あの時の真剣な顔が引っかかる。