「咲人さん……?」

「……あげる」

「あ、ありがとうございます」


咲人さんが、私のそばにリモコンを置く。その後コップをシンクに移し、リビングを後にした。

突然のことで呆気に取られたけど……


「今、会話してくれたよね?」


「あげる」の一言。
それだけの事だけど。
たった数秒の事だけど。

もう「私と話してくれない」って思っていたから、死ぬほど嬉しい。まさか、もう一度咲人さんと会話できるなんて。


「ありがとうございます、咲人さん……っ」


体の内側が、ポコポコ可愛い音で温まる。私の中の私が、喜んでいるのが分かる。満たされているのが分かる。


「こんな風に……ちょっとした思い出を、たくさん作っていこう」


私が出て行くまでの間――私の世界に咲人さんがいなくても、悲しまず前を向いて歩ける、その時まで。

咲人さんとの思い出を拾える限り拾って、ココを出よう。万が一さみしくなったらスグ思い出せるよう、最後に思い出をたくさん作ろう。