「……ミミ?」
「お、おかえりなさい」
ゆっくりと玄関を開けた咲人さんは、私の姿を見て固まった。
そりゃそうか。あれだけの事を言ったのに、何で出て行ってないの?って思うよね。
(分かっていたことだけど……)
でも、いざ咲人さんの反応を見ると、やっぱ傷ついちゃうな。
しばらく固まった咲人さんはおもむろに、玄関に設置してある全身鏡に目をやる。
黒のスキニーパンツ、白シャツ。そして、いつもと同じ柔らかそうな栗毛の髪――その中の一つ・白シャツを見てハッとした後、咲人さんは何でもないような素ぶりで。だけど流れるような動きで、素早く袖をまくった。
(今……)
一瞬のことだったけど、隠された場所には赤い点々が見えた。あれは、きっと血痕。
(まさか咲人さん、私のために隠してくれたの?私が血が苦手なことを知っているから……)