(廊下、きてる。一人)


キンキンに冷えたこの家を怪しまないなんて、普通の奴じゃない。例えばコソ泥なら「うわ、寒」くらい言っちゃうと思うぜ。でも一言はおろか、呼吸音さえも殺している。

俺くらいじゃないと気づかない、この気配の消し方。タダモノじゃない。つまり〝裏の住人〟だ。

仲間か?敵か?
それとも、かつての同胞か――


(ま、この家を大鳳咲人の家だと知った時点で、ヤッちゃっていい対象なんだろうけど)


アイツの敵を、俺が殺すんだ。
言わば俺って「命の恩人」じゃん。
あわよくば、何か見返りねーかな?


(ってわけで恩を売らせてもらうぜ)


切っ先をドアに向ける。開きっぱなしのドアからは、まだ誰も入ってこない。でも、いるはずだ。殺気が駄々洩れだもんな。

っていうのに。
この非常事態に。
このネコときたら。


「もう飛鷹さん、いい加減に!」

(げぇ、このタイミングで声だすんじゃねーよ!)