☆☆☆

今度の中古物件は快適だった。
駅もスーパーも近いし、今後カナが通うことになるだろう幼稚園も近所にある。

なによりも異音がしないという点は大きかった。
だが……。

「ねぇあなた」
「どうした? なんだか顔色が悪いな」

「最近また物音が聞こえ始めたの」
青ざめた妻の言葉に「まさか」と笑ったものの、妻のやつれ具合は前に暮らしていた家と同様のものだった。

「物音ってどんな?」
仕事で家にいないときが多い俺はそう質問した。

「眠っていたら誰かが歩く音が聞こえてきたり、シャワーの水が勝手出る音がしたり、昨日はお経を読んでいるような声まで聞こえてきたの」
妻は自分の体を抱きしめて言う。

その目には涙が滲んでいて嘘をついているようには見えなかった。
更に妻の訴えは、前に暮らしていた家にいたときと全く同じ異変なのだ。