「いやいや、ホント大丈夫ですから。申し訳ないし」
「遠慮しないで。この近くなんでしょ? 家」
「井原さんのお家は? この辺りですか?」
「俺んちは、あのマンション」

拓海が指差すマンションは、あのタワマンだった。
「え? マジで! 井原さん、王子様じゃん!」
「王子様?」

あのタワマンは現代のお城だと莉里子が言うと、拓海は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「ちげぇよ。俺はただの子供部屋おじさん。王子じゃなくて、こどおじ」

思わず吹き出す莉里子。
ほとんど話したことのない拓海と、こんなに打ち解けて話せることに、彼女は驚いていた。
一瞬の夢の後に、自分に訪れた変化。

(なんか楽しい。これも夢なら、どうぞ今度は覚めないで)