「うん、余はこれでいい。歯が悪くて、柔らかいものしか食べられないのでな。……それに、歳を取って分かったよ、沢山食べられないんだ」

 首を振って寂しそうに言うランス。それを見て同情する莉里子だったが、何もしてあげられない己の無力さに悲しくなる。

「あれ!?」
 突然、サーブするためにランスの(そば)に侍していたメイドの一人が驚いたような声を上げた。

 彼女は「失礼します」と言って、テーブルから離れたところで座っているレオ様のところに駆けつけた。
 彼女が何事かレオ様に囁き、二人は驚いた顔でこちらを凝視してくる。

 レオ様が立ち上がり、ツカツカとこちらに向かって歩いてきた。
(何? どうしたの? 私、ちょっとがっつきすぎたかしら)

「殿下、失礼します」
 レオ様がランスの後ろに回ったり、横に立ってみたり。挙句にテーブルに手をついて、彼の顔を覗き込んだりした。
「本当だ……。信じられない」

「何事ですか?」
 そう言ってランスの顔を見た莉里子も、
「ん? んん?」
 と言ってしまった。ランスの顔に違和感を覚える。先程までと何か違う。