「ちょうどいい、余も少しお腹が空いているのだ。“(きさき)” と一緒に何かつまみたい」

 ランスは、“妃” というところで、勿体ぶったように一拍置く。莉里子は、微笑ましく感じた。

「かしこまりました。では、私は用意するために、ひと足先にダイニングルームに参ります」
 レオ様は、きりりとした表情で返事すると、早足で行ってしまった。

「ダイニングルームか。緊張する」
 ランスが奇妙なことを言う。
「どうしてですか?」
「半年ぶりなのだ、隠し部屋を出るのも、ダイニングルームに行くのも」
「そうでしたか。でも、私は初めてなんですよ、ランス。初めてのほうが緊張します」
「そうだな、リリーがいてくれると心強い」

 ランスに合わせて、ゆっくりとした足取りでダイニングルームに向かう。

「ここだ」
「えーっ!」
 広さはどのくらいあるのだろう。
 莉里子の単身者用マンション一棟分くらいは、軽くありそうだ。

「ここは、客人を招いて晩餐会を催す際に使う広間だ。リリーの初めての食事はここで、とレオナールが気を遣ってくれたのだろう」