『娘婿に寄越せ』
ファンタジー世界と似つかわしくない生々しい言葉に吹き出しそうになる。
「笑い事ではありません。魔王の一人娘、オディール姫は10万28歳。10万30歳の誕生日を迎えるまでに結婚せねば、と焦っていたようだ」
(リ、リアルだな)
10万という数字を除けば、自分と同じ28歳。莉里子はオディール姫に親近感を覚えた。
「どんな人でしょう?」
「真の姿は、誰も見たことがありません。セレスティア同様、魔術でいくらでも姿を変えられますからね」
「余が悪いのだ。オディールに無駄な期待を抱かせた……」
王子がうなだれている。
「王子、ご自分を責められますな! 魔王とオディールの魔力には誰も逆らえない、無理もないことでした」
どうやら、魔王親子が王家主催の舞踏会に紛れ込み、オディールの美貌に王子が『やられた』らしい。
二人は周りの目を盗み、猟場や白鳥の湖の湖畔で密会を繰り返し、愛を誓うまでになったという。
「白鳥の湖? 密会?ですって」
その言葉とシチュエーションに、妙にツボってしまった莉里子は声を上げて笑い始めた。そんな彼女を、不思議そうに眺めていたレオ様も、つられて笑い出した。