「ここです」
「ここ?」
 レオ様が指さしたのは粗末なドアだった。

 他の部屋のドアは金銀の装飾が施されているのに、そのドアだけは若草色で、それもペンキが剥げかけて、みすぼらしい。

 ギィ……。
 ドアを押すと、軋む音がする。

 中は狭く、壁際に赤いビロードの椅子がぽつんと置かれただけの部屋だった。

 レオ様は椅子に近寄り、背もたれの部分を持って、ぐいと動かした。
 すると、壁に半分サイズのドアが隠れていた!

「ここからお入りください」
 レオ様は言って、中腰でドアを開けて中に入って行った。

 怖いけれど、仕方なく莉里子も屈んで中に入った。
 中は暗く、ぼんやりと蝋燭程度の灯りが見えるだけである。

 暗闇に慣れてくると、その隠し部屋の中は広い空間だということがわかってきた。
 豪華なベッドや、書物机(かきものづくえ)と書棚といった家具が置かれている。

「レオナールか?」
 男性の嗄れ声(しゃがれごえ)がして、灯りの奥に、誰かが立っているのが見えた。

 レオ様は弾んだ声で答える。
「殿下、とうとう聖女様が来てくださいました!」