「聖女様、大丈夫ですか? お一人で立てますか?」
「え? ええ、大丈夫そうです」
 そう答えて立ちあがろうとしたが、敷いていた毛皮に足を取られ転びそうになる。

「危ない!」
 レオ様が叫び、莉里子の体を支えると、そのままお姫様抱っこしてくれた。

 (うお!)
 心の中で叫ぶ。
 28年間生きてきて、お姫様抱っこどころか、男性と全く縁のなかった莉里子は興奮状態である。

「ご無礼とは思いますが、このまま王宮にお連れいたします。お許しを」

 レオ様は声もいい。うっとりと聞き惚れていた莉里子だったが、このまま自分が聖女として王宮に行っていいのだろうか、と不安になる。

 不安は緊張感に変わり、体がシャキッとしてきた。
「レオ様、もう大丈夫です、ひとりで歩けます」
 え? と立ち止まったレオ様は莉里子を下ろした。

「腕が痺れる前でよかった」
 まあまあ失礼な言い草であるが、イタズラっぽい笑顔で囁かれると、殺し文句に聞こえる。

 宮殿に入り、廊下を歩き始めたが、いつまで歩くんじゃい! と言いたくなるほど歩かされる。
 莉里子の心の声が聞こえたわけではないだろうが、レオ様はぴたと立ち止まった。