夏は夜。
 それも夕方、そろそろ暗くなっていく頃が最高じゃないかな…… と、莉里子は思っている。
 昔の人は、 “逢魔時(おうまがとき)” なんて呼んだ時間帯らしいけど。

 天宮莉里子(あまみやりりこ)、28歳。独身。一人暮らし。
 仕事は派遣の一般事務。
 地方から都会に出てきて、もう二年。

 おかげさまで、毎日平穏無事に過ごしている。実家住まいだった頃に出来た貯金のおかげで、節約を意識しなくとも、ゆるゆる暮らせている。

 だがしかし。
 友人とTDLに行き、オフィシャルホテルに泊まるとか、海外旅行に行くとか、そこまででなくとも、世間で人気のお店の食べ歩きをするとか。
 そういったことを楽しむほどの余裕はない。

 最近人気のかき氷屋さんに、会社の人に誘われて行った時も、価格は千円超えが当たり前だったので、地方出身の莉里子は正直引いてしまった。
 一人暮らしの派遣社員では、都会の暮らしを満喫するなんて無理なのである。

 今日は週末金曜日。
 帰宅したらシャワー浴びて、アマプラで映画でも観ながら、コンビニの新作スイーツを食べるのが唯一の楽しみなのだ。

 ふと思う。
 こんな暮らししてるアラサーって、どうよ?