キャラクターが乗った車が、ゆっくりと近付いてきて、その周りを派手なダンサーが踊っている。

 ダンサーの一人がシャボン玉を吹いていて、それがふわふわとあたしのところにも漂ってきた。



「わあっ……!」



 あたしは思わず声をあげた。

 さっきまで、切ない物語の中に入り込んでいたのに、一気に心が塗り替えられてしまった。

 音楽、ダンス、笑顔……こんなにも、明るくてきらびやかなものがあったんだ。

 後から考えると、写真でも撮っておけばよかったかな、なんて思うけど。

 その時のあたしは、夢中で目の前の光景を見つめていた。



「ねえ、福原くん! すごかったね!
すごかったね!」

「はい! 場所取りした甲斐がありました」



 それからは、ペースを落として、コーヒーカップやメリーゴーランドに乗った。 

 最後にあたしが選んだのは、観覧車だ。 

 ゴンドラに向かい合わせに乗り、あたしはわくわくしながら言った。
 


「高いところ好きなんだ! どんな景色が見れるかな?」



 福原くんは、ぎゅっと握りこぶしを作って、引きつった笑顔を浮かべていた。

 あっ、まさか。



「福原くん……高いところ苦手?」

「バレましたか」

「ご、ごめんね? あたしったら、付き合わせて……」

「いいんですよ。それより……二人っきりですね」

「あっ……」



 ゴンドラはゆっくりと動いていく。

 あたしの心も動いていく。

 どんどんのぼる。高いところへと。



「福原くん。隣……行ってあげようか?」

「えっ……」

「こわいんでしょ? 隣の方がいいよ」

「はい……」



 あたしはそっと福原くんの左隣に腰掛けた。

 自分でも、大胆なことをしていると思う。

 けど、勝手に口と身体が動いてしまった。

 この気持ちは、きっと。多分。いや、絶対。



「……花崎さん、おかげでこわくないです」

「そっか」

「でも、外は見れないですね……」

「そうだ。頂上で写真撮ろう?」

「はい」



 観覧車の支柱を見つめて、頂上が近付いた時。

 あたしはスマホを構えた。
 


「いくよー」



 カシャッ。



「僕、上手く笑えてないですね」

「あたしも変な顔だ」



 ゴンドラが下りていく。

 でも、あたしの鼓動は高鳴ったまま。

 記念ができてしまった。男の子。福原くんとの。初デートの記念が。

 ゴンドラを出て、地上に足をつけた後も、あたしはどこかふわふわしていた。