高校生って、けっこう忙しい。

 あたしは部活もバイトもしてないけど、それでも宿題に小テストに定期テストに追われていた。

 一息つけるのが、福原くんとの図書当番。

 お互いに、好きな本を交換してみたりなんかして。

 ちょっとずつ、ちょっとずつ、福原くんとは打ち解けていった。



「花崎さん。テストお疲れさまです」



 七月。一学期の期末テストが終わった翌日の図書当番。

 福原くんとはずいぶん久しぶりに会う感覚だった。



「福原くん、テストどうだった?」

「そんなに自信ないですねぇ……」

「えー、本当に?」



 あたしはというと……補習は何とか回避できたかな、というところ。

 うちの高校は、地域では進学校として知られていて、ほとんどの生徒が大学を目指す。

 来年になったら受験生。趣味の本なんて読む暇がなくなるんだろうなと思うと、今からげっそりだ。

 相変わらず誰も来ない図書室のカウンターで、あたしたちはしばらく勉強の話をしていた。

 それが途切れて、福原くんは咳払いをした後に言った。



「あのぅ、花崎さん。嫌だったらいいんです。僕と、その……遊園地、行きませんか?」

「えっ、遊園地? 行きたい!」



 あたしは今まで、遊園地に行ったことが一度もなかった。

 うちの親は、そういうところに連れて行ってくれなかったのだ。

 まずは勉強。次に勉強。とにかく勉強。

 そういう親だから。



「花崎さん、本当にいいんですか?」

「もちろん! ねぇ、いつにする? 次の土曜日空いてる?」

「空いてますけど……」

「じゃあ行こう行こう!」



 そして、連絡先を交換していなかったことを思い出して、スマホでやりとりして。

 土曜日の朝に、駅で待ち合わせることにした。



 遊園地に行けることが嬉しすぎて、金曜日になるまで気付かなかったけど。



 あれ? これって、男の子との初デートじゃない?


 そう意識してしまってからは、大変だった。

 服、どうしよう。頭の中が大騒ぎだ。

 動きやすい方がいいからスカートはダメ。

 そうするとパンツだけど……暑いだろうしショートパンツかな。

 はいてみる。

 脚、出しすぎな気がする。ニーハイはいとこうか。

 上、どうしよう。上。可愛いのなんて持ってない。

 半袖のトップスを片っ端から着てみる。

 しっくりきたのはやっぱりTシャツ。

 だってほら、遊園地だもんね。スポーティーな方がそれっぽいよね。

 白地で胸にワンポイントがついたものにした。



「大丈夫、梓、大丈夫、大丈夫……」



 そう鏡の前でブツブツ呟いて、パジャマに着替えてベッドに入ったけど、なかなか寝付けなかった。