雲一つない空は、今日も青く澄んでいた。
直接降り注ぐ太陽の暑さは容赦なく地面を照りつける。まだ五月の半ばだというのに、八月のように蒸し暑い。

「はあー。」

学校の誰もいない広いグラウンドを眺めながら、思わずため息をついた。
こんなはずではなかったのに・・・。


男たちの聖地、そう、僕はこの聖地に立つためにここへ来たのだ。そのためだったらなんでもする。
そう決心して激戦区である地元の神奈川県を出てきたのに。
名門シニアを出てきた僕には自信があった。
この学校で、あの有名な顧問、西村に教われば、確実に甲子園に行ける。
なのに、なぜ僕の代からこんな目に合わせられるのだろう。

「野球部は廃部になった。」

そう顧問の西村から聞かせられたのは、つい五月のはじめだった。入部して間もない僕は何かの冗談かと思ったが、西村はそのまま学校へこなくなった。
あの最後の一言を残して辞任したそうだ。

やっと、正気をもどした僕はすぐさま校長室へ行くことにした。勝算はあった。どう考えても理不尽すぎるからだ。きちんと説明もせずに廃部になるなんねありえない。校長室の前で深呼吸する。よし、いけるぞ。そう自分に言い聞かせながら勢いよくドアをノックした。

「どうぞ。」

校長独特の低く太い声だ。僕は中に入り静かにドアを閉めた。校長は一向に僕を見もせず、書類のようなものを読んでいた。僕は居心地の悪さを追い払うかのように咳払いした。

「なんだ、君かね。なにか用かね。」

かなり驚いた様子だ。今がチャンスだ。僕はやや早口になりながら言った。

「なぜ、急に野球部が廃部になったのですか。理由を教えてください。」

「僕は甲子園に行くためにこの学校に来ました。なぜ西村先生は辞任したのですか。部活させてください。僕はあの先生に野球を教わりにきたんです。」

今まで自分の中にたまっていたものを一気にはいたのだろう。校長は驚きを隠せない。
よし、これで何もかももとに戻って野球ができる。
僕は勝ち誇った目で校長をみた。

だが、校長は僕の予想通りの顔ではなかった。
「君は、何も知らないのかね。君もうちの野球部ならアンケートをとっただろう。あれが全てだ。」
そう言ってさっきまで校長が読んでいた書類の中の一枚の紙を僕によこした。

思い出した。入部し始めの時、部員全員に対してアンケートをとった。
もちろん僕はこれからの記述は、もっと上手くなりたい。野球部に入った理由は、甲子園に出場したい、と書いた。

紙はアンケートの結果と今後についてだった。
野球部に入った理由、運動部だと何かと内申に有利だから。
今後について、あの顧問は厳しすぎる、野球部は引退が他の部より遅い。野球部を辞めたい。

二十人近くいる部員のうち、僕以外の全員が、同じようなことを書いていた。
僕は何も言わず校長室を出た。
足が勝手に僕をどこかへ連れていく。
こんな思いならどんなに頑張ったって、勝てるはずがない。
部員も顧問も校長も僕以外の全員が廃部に賛成だなんて。
僕は四面楚歌の状態に陥った。

気がついたら、ため息をついて一人、グラウンドの外を眺めていた。