晴香は佳乃子に山城に連絡が取れ、
浩介と山城の2人が向かっていることを伝えた。

佳乃子が静かに頷くとその一瞬に悲しい顔を覗かせた、晴香も苦しい想いに駆られていた。

佳乃子は、念仏を聞いているかのように女の話を聞いている。

さっきは「好物の煮魚を作っている」という話だったので、浩介の唯一の好物は山菜パスタだとつい言ってしまった。


浩介は小さい頃、筋金入りの偏食家だった。
義母さんが浩介の為に作った
子どもでも食べやすい山菜パスタのレシピがある。
大人になってからは偏食は無くなったが
山菜パスタが唯一の好物。
一年に春だけ食べれる唯一の。
春になるとよく浩介からリクエストされた。
浩介と結婚後に義母さんから伝承したレシピは
いつも浩介を喜ばせていた。


ーーどうしても言いたかった。


浮気をした夫に対してなんて
滑稽な感情を抱いているんだと自分に呆れてしまう。
佳乃子は浩介が可哀想に思えてた。
唯一の好物を知ってもらえていないなんて…と。

そしてまだ浩介から心が離れていない自分に向き合わされた。