浩介は最後に独り言のように、いや頼み事かのように話し始めた。

「楓には一番見せてはいけないところを見せてしまった。
あの子は優しい子なので今頃私を殴ったことで
さらに傷ついてないか心配で…」

浩介の電話には出てくれないと話した。
山手は静かに「そうですか」と答えるに留めた。

情けない姿を晒し、子を心配するその姿は一段と小さく見えた。


浩介は書類に目を通してサインをすると山城に綺麗にまとめて渡した。

「はい。書類は全部記入できています。」
山城は書類を受け取るとカバンに詰めると、カバンの中に転がるSDケースを見つけた。

墓についての条件を飲んでもらう最後の切り札に残していたが。

浩介は佳乃子と夫婦だった人間だ。
土壌は同じなのかもしれない。

こんな結末で出会うことが無ければ
楽しく酒が飲めていたかもしれないと思うと
少なからず残念な気持ちも芽生えていた。


山城は浩介に今後の流れを伝えて今回の作業は終了した。

浩介が席を立とうとすると山城のスマホが鳴った。
浩介はどうぞと促すと静かに「それでは」と山城に一瞥してホテルを出た。
山城は浩介に軽く手を上げてスマホを見た。

ーー晴香からだ。佳乃子と墓石霊園に見学しにいっていたが何かあったのだろうか。

スマホから聞こえる晴香の声に驚いた。
晴香はことの顛末を足早に山城に話すと
山城は最後まで聞くか聞かないうちにカバンを掴んでロビーから走り出していた。
ホテルから出て、周りをキョロキョロと見渡すと遠くに浩介を見つけることができた。

「坂倉さん!」

山城が走って浩介に追いつく。
ぜえぜえと息を切らしながら膝に手をついている。
「家まで送ります。」

浩介は驚いている。
「山城さん…?」

山城は息を飲み込みながら早口に話した。
「すぐに家に戻って。松永さんが産気づいた。」