山城の車に乗った浩介の後ろ姿を見ていたのに一度も見てくれなかった。
今佳乃子の代理人として来た山城のがこちらをチラチラ見て浩介に話しかけていたのに。

夏海は「何なの!」と部屋に戻るとスマホを見つけるとベットに座る。

ーーわかっていたが不倫の代償に慰謝料を払うことになったのに、浩介くんのあの態度が気に食わない。私はあなたの子どもをお腹に宿しているのよ。


イライラと爪を画面に打ちつけて浩介にメッセージを送った。
その途端ピコンとリビングから音が聞こえた。

夏海が顔を上げてリビングを見回すと、棚の上に浩介のスマホが置いてあった。画面を見ると先程な送った乱暴なメッセージが画面に浮かんでいた。

「何でよ!」

浩介は夏海のLIMEが多数届くことを予想してわざとスマホを家に置いていった。
怒りで頭が狂いそうな夏海は浩介のスマホをソファーに投げつけた。それでも気がおさまらない。はぁはぁと息が上がる。

投げつけたスマホから着信音が鳴った。
びくりと驚いたが、スマホの画面を見るとキリキリと笑顔になった。



画面には「佳乃子」と書かれていた。



ーー慰謝料を払います。逃げ隠れする必要はないんだから。彼の妻は私になります。


夏海は先ほど投げた浩介のスマホ持ち上げると、ソファーに座り通話のボタンを押した。


「…もしもし」


ーーおばさんね。浩介くんの奥さん。




夏海はゆっくりと口角を上げて答えた。
「初めまして。」