街中にある雑居ビルの三階に山城弁護士事務所がある。
エレベーターはないが白い床に白い壁、黒い手すりがよく映えた螺旋階段がある。

どこかの海外映画で見たような螺旋階段を気に入ってここに事務所を構えた。
依頼者にはエレベーターが無くて不評だが、街弁として男1人と事務員を何とか食べていけるくらいは稼げている。
事務員は娘の晴香だ。子どもを連れて出戻ってきたシングルマザー。

佳乃子は離婚の窓口に山城になってもらうためにこの法律事務所にやって来た。
夏には不向きな黒皮のソファーに座ってことの顛末を山城に話していた。

「でも、洋ちゃんが本当に弁護士になってるとは思わなかったわ。梓から洋ちゃんの名刺貰ってびっくりしたよ」
佳乃子の向かいの席に座った山城洋一が書類を前にして頭を抱えてため息をついている。呑気な佳乃子の顔ををじっと見ていた。
そこへ洋一の事務所で事務員をしている娘の晴香がアイスコーヒーを持って来た。
アイスコーヒーを佳乃子に出すと晴香もと洋一の横に座って広げた書類に目を向けた。


「これは、正気の沙汰?」
晴香は目を丸くして書類を読んでいる。
「うん…無理かしら?」

晴香は困った顔をして洋一を見ると洋一はため息をつくように話した。
「どういうつもりで、この条件を出しているのか聞かないけどさ。
相手が難色を示すことは大いに考えられるから、別案も考えておきたいね。」

「…」
佳乃子は山城をじっと目を細めて見ている。
山城は小さい頃から変わらない頑固者の視線を感じている。

「はぁ、わかった。
でも時間かかるかもしれんからな」
「ありがとう。よろしくお願いします。」
佳乃子は談笑した後アイスコーヒーを飲み干すとひととき昔話に花を咲かせた後、帰っていった。