キャンプ場の駐車場に車を停めた。
子ども達と一緒に何度も来た懐かしい場所で
浩介は話し出している。

ーーこんなとこで、話す気なの?


「この前、楓が家にきた時に
その…相手を見られてしまった。」

「何を…?えっ一緒に」
ーー女と一緒に住んでいるの

佳乃子険しい顔で湧き上がる吐き気を抑えようと口元をタオルで覆った。

「申し訳ない。
私から楓や梓には話すよ」

ーー私が辛い時も女といたんだ
話も離婚ありきで勝手に始めてる

ーー本当に本当にここには
私の好きな浩介はいないのね。

吐き気を押し殺そうと目を瞑って呼吸を整える。
口元を覆った手に力が入る。

ーー離婚に同意するつもりで来たのに、
まだ浩介の浮気話を疑っていた。
ここまで来て未練なのか。
そんな自分に呆れてしまう。

ーーもう、この人と生きていく人生はない。
浩介はここで終止符を打ちに来たんだ。

「あ…すまない。離婚の話を佳乃子としてないのに」

浩介が気づいて佳乃子の顔を見るが
佳乃子は聞いてはいなかった。
すーっと息を吸って目を開けた。



「わかりました。離婚に…同意します。」




頬に一筋涙が流れた。

喉が詰まる。
滲んだ視界から浩介がほっと肩を下ろすのがわかった。

ーーどうにかして
体の中にある苦しいものが蠢いている
今までの私に何か報いたい

「一つだけお願いを…」

報いたいと願ったからか口が勝手に動いた。
運転席の浩介がこちらを見た。
ぎゅっと両手に力を込めて今できる笑顔を顔に貼り付けた。

「最後はあなたと一緒のお墓に入りたい。」
口角が揺れる。

ーー今も思っている
嘘だと言って欲しい
あんなことにならなければ今年も同じ夏に浩介と笑っていただろうに

夏の暑い空に今までで一番間抜けな驚いた浩介の顔が見えた。
今年も同じセミの声だけが鳴っている。