意識はすぐ戻ったものの、熱中症でも他の病気でもいけないので町内会長直々に病院に行くよう言われた。
都は佳乃子を病院に連れて来ていた。

ーーご主人に連絡してもいいかしら。
単身赴任する前に浩介から聞いた連絡先の画面を見ながら病院の廊下で自問自答を続けている。

診察室から佳乃子がヨタヨタと出てきた。
都は心配そうに佳乃子に駆け寄った。

「すみません。大丈夫です。寝不足がたたったみたいで。頭も打ってないし肩も打撲程度で。ほんと大丈夫。」
弱々しい笑顔で佳乃子が都に答えた。

「入院とかは?」
「家にすず、あ、猫にご飯あげなきゃいけないし。入院とかはなしにしてもらいました。その代わり何かあったらすぐ病院に行くことになってます」
「そんな、猫ちゃんなら私がお世話しに行くよ。」
「大袈裟ですよ。肩やっちゃっただけです。
もう帰っていいそうです。」
「でも、帰ったら1人よね?誰かに連絡した?」
「みんな忙しいから。家でゆっくりしてたら大丈夫。」


都は目を瞑って立ち止まった。
「わかった。でも…大丈夫じゃないわ!」
佳乃子は都を見て目を丸くしていた。

「疲れてるのに無理して町内会清掃したり。入院しないとか。家族に連絡しないとか。私が大丈夫じゃない!家族に連絡しないって言うんなら悪いけど今日は甘えてちょうだい!」

あまりの勢いに佳乃子は圧倒されていると都は会計の長椅子に佳乃子を座らせてペットボトルのお茶を渡した。

「はい。休憩ね。
会計してくるから。待ってて」

佳乃子は呆気に取られながら都の後ろ姿を眺めていた。
都は踵を返しパタパタと戻ってきた。

「ごめん。私お財布忘れてた。坂倉さんのお財布から直接会計しに行っていい?」

「ふふ。はい。ありがとうございます。」
バツの悪そうな都に財布を渡した佳乃子は笑顔になっていた。
佳乃子は心が少しほぐれていくのを感じ、温かい感覚に久しぶりに浸っていた。