通夜の席で佳乃子は泣かなかった。
泣いたら隣の席の浩介が背中をさすってくるかもしれないと思ったら泣けなかった。
離婚するかしないか話が出ている時に優しくされたく無かった。
いや、何もなくて浩介の心が離れたという事実を目にしたく無かったのかもしれない。

この過ごした2日はいつもの浩介では無かった。ただそれだけで佳乃子に心がないことはわかった。

ベランダから浩介が施設を出て道を歩く姿が見えた。
涙を拭って目を逸らすと、奥の道から赤いミニバンが木々の下を走ってくるのがわかった。
火葬場は奥まった場所にあり、ミニバンの行き先は火
葬場しかないということになる。

ーー何か嫌な感じがする

佳乃子は胸騒ぎを感じた。
赤い車が浩介の横で止まった。

ーー乗らないで…!

浩介が勝手知ったる様子で助手席にから入った。


ーー誰の車なの

赤い車は駐車場で迂回して、来た道を戻っていった。

ーー仕事って言ったじゃない

ヨロヨロとベンチにもたれ掛かった。

ーーあぁ。あの日の車だ…

佳乃子は赤いミニバンがあの日に天野駅前に駐車していた、child in carのステッカーが貼っていた車だとわかった。

ーーこんな日に…

未練の中に怒りが芽生え始めていた。

ーーもう私の知っている人じゃないのね